『Originals』プリンスとたどる80’sポップの世界(後編)
こんにちは。
引き続き、プリンスの新作『Originals』の収録曲について、感想を書いていきたいと思います。
8曲目は、シーラ・Eに提供された”Holly Rock”です。元気いっぱいの掛け声から始まる、ライブで盛り上がること必至のアップ・ナンバーです。この曲が出た頃は、ポップ・ミュージックにおけるラップの人気も高まっていましたが、専門のラッパーにまかせずに、歌手がラップに挑戦することがありました。この曲でも、シーラが明るくはつらつとしたラップを聴かせています。パーカッショニストだけあってリズム感もバッチリだし、なんだか歌っているときよりもいきいきしているように感じました。 『Originals』では、プリンスのラップが楽しめます。彼のラップがうまいかどうかは、よくわかりませんが、プリンスって本当にいろいろなことを器用にこなす人なんだということは、よくわかりました。
次は、ジル・ジョーンズ(Jill Jones)に提供された”Baby,You’re A Trip”です。ジルはプリンスの作品でバッキング・ヴォーカルを担当していました。癖のない素直で綺麗な歌声で、彼を支えました。 “Baby,You’re A Trip” は、彼女のソロ・アルバムに収録されていますが、すごくよい曲だと思います。ほのかにブルージーなソウル・バラードで『Originals』のなかでも、私のお気に入りの曲のひとつです。『Originals』では、プリンスは”Do Me Baby”を思わせるような、情熱的な歌を聴かせてくれます。とてもデモ音源とは思えない、気持ちのこもったパフォーマンスでした。
続いて、シーラ・Eに提供された″The Glamorous Life”です。彼女のデビュー曲にして、最大のヒット曲です。当時はMTV全盛の頃で、「グラマラス・ライフ」のミュージック・ビデオは、もう何回も見ました。シーラがスティックを放り投げたり、ハイヒールでシンバルを蹴り上げたりする姿が斬新で、強く印象に残りました。『Originals』のプリンス・バージョンも、シーラ同様にかっこいいです。この曲に対しても、デモ音源だからといって手を抜くことをしないプリンス。オープニングのサックス演奏がかなり本格的で、驚きました。プリンスが持っているジャズ的な要素と、シーラの個性がうまくかみあって、80年代ポップを代表する名曲が誕生したのだと思いました。
次は、タイムに提供された”Gigolos Get Lonely Too”です。プリンスの作品にしてはめずらしく、都会的で洗練された雰囲気を持つミディアム・ナンバーです。80年代の中〜後半にかけてのR&B界では、こんな感じのお洒落なサウンドが流行っていて、私も好きでよく聴いていました。今回『Originals』が発売されたことにより、プリンスが歌うメロウ・グルーヴを聴くことができて、嬉しかったです。
続いてマルティカ(Martika)に提供された”Love…Thy Will Be Done”です。まるでエンヤのようなこの曲も、プリンスらしくない曲のひとつといえるでしょう。大きな動きのない、静かに流れてゆく曲にのせて、マルティカの透明感のある歌声が、聴く者の心を癒していきます。 『Originals』では、プリンスはファルセットで歌っていますが、扇情的なところはなく、まるで聖歌隊のように清らかに歌い上げています。彼のパフォーマンスとしては、とてもめずらしいと思いました。
次は、シーラ・Eに提供さた”Dear Michaelangelo”です。「グラマラス・ライフ」のように、シーラの迫力あるドラム・プレイをひきたてるハードな曲です。シーラ版は、彼女の歌をサポートするためか、アレンジもカラフルでしたが、 『Originals』のプリンス版は、すっきりとしていて、聴きやすかったです。
続いて、タジャ・セヴィル(Taja Sevelle)に提供された”Wouldn’t You Love To Love Me?”です。はずむような軽やかな歌声が持ち味のタジャ。この曲は、明るい典型的な80’sポップという仕上りで、彼女のイメージによく合っていると思いました。 『Originals』のほうも、あまりプリンス色を表に出さずに、流行のポップ・ミュージックを追及したような感じになっていて、興味深かったです。
最後は、ザ・ファミリー(The Family)に提供された”Nothing Compares 2 U” です。こちらは、シンニード・オコナーのカバーが有名ですが、もともとはプリンスの関係者バンドであるファミリーに提供されたものです。ファミリー版とプリンス版を比べてみると、やはりプリンス版のほうが、歌の濃密さで勝っているように思いました。この ”Nothing Compares 2 U”にしろ、「パープル・レイン」にしろ、プリンスが歌うロッカ・バラードが流れると、つい、じっと耳を傾けてしまうんですよね。
以上、プリンスのニュー・アルバム 『Originals』を聴いての感想でした。収録曲はバラエティーに富んでいて、80年代ポップの世界をひとめぐりするような楽しさを味わいました。これらの曲を作ったプリンスは、作曲家として柔軟な発想力があり、ヒットを生む才能に恵まれていたこと、また、ひとりで楽曲を完結させてしまうほど技術力の高いミュージシャンだったことが、よくわかりました。デモであるにも関わらず、ほとんど完成品のような楽曲を聴いていると、彼の完璧主義的なところや、作業に打ち込み過ぎる性分などが感じ取れます。それと同時に、人に提供した曲であっても、機会があれば自分の曲として使おうとしていた姿も透けて見え、彼のシビアな一面を垣間見たような気もしたのでした。
プリンスのニューアルバム 『Originals』を、ぜひ聴いみてください。