大人のR&Bの決定版 ケム『Love Always Wins』

こんにちは。
今回は、ケム(KEM)のニューアルバム『Love Always Wins』をご紹介します。

ケムは1969年生まれ。アメリカはデトロイト出身のシンガーソングライター兼プロデューサーです。インディで制作したアルバムがモータウンの目に留まり、2003年にアルバム『Kemistry』でデビューしました。その後はモータウンの看板アーティストとして、コンスタントに作品を発表し続けています。

若い頃はドラッグ中毒に陥り、ホームレスも経験したケム。しかし、そのような過酷な過去が想像できないくらい、彼の音楽は洗練されていて、優しさにあふれています。人々の心を癒やすケムの音楽は、本国アメリカでとても人気があり、多くの人の支持を得ています。

『Love Always Wins』は、6年ぶり6作目のアルバムになります。今回も基本的なスタンスは今までと変わりません。アダルトな雰囲気のなか、ジャジーでお洒落なケムの世界が繰り広げられています。昨今のR&B界にはびこるトラップサウンドなどどこ吹く風、メロディーの美しい曲を、生演奏を基調にしたバックで丁寧に歌い上げるという、独自のスタイルを守り抜いています。

そのうえで今作の特徴を挙げるなら、今までよりも”ソウル”を感じさせる内容になっている、ということでしょう。アル・グリーンやマービン・ゲイを思い起こさせる曲があったり、彼にしては珍しく熱量の高いディスコ/ブギー調の曲があるなど、70年代ソウルに対するケムの尊敬や憧れが伝わってきます。

彼のヴォーカルに関しては、キャリアを重ねたことにより、だいぶこなれてきたな、という印象を持ちました。ソフトでシルキーな歌声にはますます磨きがかかっていますし、曲によっては結構ソウルフルな表現もあって、とても魅力を感じました。

今作は、女性シンガーをゲストに招いた曲が2曲あります。”Live out Your Love”はトニ・ブラクストン、”Love Always Wins” はメアリー・メアリーのエリカ・キャンベルとデュエットしています。(ケムのソロバージョンも収録されています。)トニもエリカも、高い歌唱力を持つ実力派で、力強い曲を得意とするシンガーですが、ここではケムとのデュエットということで、優しく穏やかな歌声を聴かせてくれています。どちらの曲も大変素晴らしく、おすすめです。

ケムのニューアルバム『Love Always Wins』は、流行に左右されずに、長く愉しむことのできる良盤だと思います。全曲が試聴できる動画を載せておきますので、ぜひ聴いてみてください。