良盤!ラサーン・パターソン新作『Heroes & Gods』



こんにちは。

90年代後半のR&B界では、才能ある男性ソロシンガーが次々にデビューし、人気を集めていました。ディアンジェロをはじめとして、マックスウェルやエリック・ベネイなどなど。彼らの音楽は、70年代のソウル・ミュージックの影響を強く受けていたことから”ニュー・クラシック・ソウル”などと呼ばれていました。そのムーブメントの担い手の一人にラサーン・パターソン(Rahsaan Patterson)がいました。

彼は、もともと子役として芸能活動をしていたそうですが、97年にデビュー・アルバム『Rahsaan Patterson』を発表し、R&B歌手としてのスタートを切りました。このアルバムは大変素晴らしい作品でした。曲も歌声もスティービー・ワンダーを強く意識していて、その思いが90年代のR&Bにうまくあてはめられていました。デビュー作にして、これだけ質の高い作品を出すなんてすごい人だ、と驚いたものです。

そして99年にはセカンド・アルバム『Love In Stereo』が発売されましたが、これも負けず劣らずの傑作でした。デビュー作よりもファンク色が濃くなり、歌声もビブラートを強く効かせて表現の幅を広げ、アーティストとしての充実ぶりがよく伝わってくる作品でした。 『Love In Stereo』 にはボーナス・トラックとして、ブロウ・モンキーズの”Digging Your Scene”(86年)のカバーが収録されていました。私は、 ブロウ・モンキーズが大好きで、かつてカセットテープを買い求めたほどでした(当時はラジカセしか持っていなかった)。ですから、ラサーンがこの曲を取り上げてくれたことにより、彼への好感度が一気に高まりました。

その後も、ラサーンは質の高いアルバムを発表していきましたが、正直、90年代の勢いは徐々に失われていきました。でも私は、彼が作る曲にとても魅力を感じていたので、新しいアルバムをずっと待っていました。そして先日、前作から8年ぶりとなるニューアルバム『Heroes & Gods』がようやく発売されました。

さっそく聴いてみましたが、8年ぶりのアルバムとはいえ、ラサーンの軸がぶれていないことに安心しました。70年代のスティービー・ワンダーのように、心に響くメロディーラインを、ひとつひとつ丁寧に歌い上げる。今流行している R&B とは距離を置いたスタイルですが、私はこういうのが好きなので、ああ、やっぱりラサーンはいいなあ、としみじみ思いました。

『Love In Stereo』の頃は、彼の歌には独特の節回しがあって、そこを敬遠するR&Bリスナーもいました。けれども、現在の彼の歌は、幾分まろやかになり、当時より聴きやすくなっていると思います。また、彼の得意な、自らの歌声を重ね録りして作るコーラスは今回も健在で、ラサーンの歌の世界を盛り立てています。

90年代の作品によくみられたズッシリくるファンクナンバーは、今回は見当たりません。が、打ち込みのリズム音を前面に出したエレクトリック・ファンク風のトラックが数曲あります。ただ、その打ち込み音が、今っぽさを出したいのか、90年代風にしたいのか、それともレトロな80年代風をねらったのかわかりかねるところがあって、中途半端な印象を受けました。その部分だけが、ちょっと残念でしたね。打ち込みで音楽を作るのって、難しいんだなあ、と思いました。

でも、気になったところはそれくらいで、それぞれの曲自体はよく出来ていましたし、ラサーンのソウルフルな歌も素晴らしかったです。特に中盤の”Break It Down”~”Don’t You Know That”(ルーサー・ヴァンドロスのカバー)~”Sent From Heaven”のメロウ三連発がとても良く、このアルバムの最大の聴きどころだと思いました。

時間をかけてじっくりと味わいたい、 ラサーン・パターソン のニューアルバム『Heroes & Gods』。皆さんも、ぜひ聴いてみてください。

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